ヴィルヘルム・ゲナツィーノ『そんな日の雨傘に』

 ヴィルヘルム・ゲナツィーノ『そんな日の雨傘に』を読みました。
 
 
 
 現代ドイツ文学。靴の試し履きを生業とする男が、街を歩き、人と会い、周りを見つめます。
 夏祭りの中、自宅のベランダに隠れ家作る少年を眺めるラストシーンが印象的。少年は翌日おそらく学校に行っています。少年も社会からは逃げられない。しかし、祭りの後も母親は少年の隠れ家を壊さないのです。家に帰ってくれば隠れ家が少年の逃げ場所として存在している。逃げ場所は作れるし、守られうる。そこに「逃れられない出来事のただなかにいながら逃れる」(P.189)希望が見つかりそうです。
 
 オススメ。もっと翻訳でるといいんだけどなあ。
 
 今年33冊目。

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マーク・ローランズ『哲学者とオオカミ―愛・死・幸福についてのレッスン』

 マーク・ローランズ『哲学者とオオカミ―愛・死・幸福についてのレッスン』を読みました。
 
 
 
 オオカミの“ブレニン”と共に生活した哲学者が、その生活の中で愛や死や幸福を考察します。
 
 我々はともすると、人間を特権的な地位において物事を考えてしまいますが、マーク・ローランズはブレニンと暮らす中で、人間が必ずしも特権的な地位には居ないこと、動物も含めて公平にとらえて考察するべきであることを論じていきます。
 そんな中でも、ジョン・ロールズを批判し、従来の社会契約では排除されてしまう動物や弱者らも含めて契約論を立てようと論じた部分が面白い。この点については著書も書いているんですが邦訳出てないみたい。残念である。
 
 オススメ。
 
 今年32冊目。

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阿部ねり『安部公房伝』

 阿部ねり『安部公房伝』を読みました。
 
 
 
 高校生のときに、私の周りで安部公房が流行りまして、小説は安部公房しか読まない!といった同級生も現れる始末でした(ああ、A君とA君、元気でしょうか)。ワープロ使って小説書くことについて、みんなで(3人で)論じあったりと、なかなかアツかったなあ。なつかしい。
 
 言語論の部分が浅く、全集からのインタビューが1/3程度含まれているなど、内容的にはちょいと残念。他の作家との交流の部分はもっともっと書けたのではないでしょうか。
 
 今年31冊目。

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