『ベルリン終戦日記 ある女性の記録』

『ベルリン終戦日記 ある女性の記録』を読みました。
 

 
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「イルゼ、あなた何回やられた?」「四回よ、あなたは?」「わかんないわ。輜重隊の兵隊に始まって少佐まで出世しなきゃいけなかったの」
(p.254)
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アントニー・ビーヴァーが序文。ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガーが後書を担当しています。
アントニー・ビーヴァーは『ベルリン陥落1945』の著者。
ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガーは、『冷戦から内戦へ』『国際大移動』を書いている人で、大学時代によく読みました。
著者はドイツ人女性ジャーナリストです。匿名を望んでいたので、著者名は伏せられています。
 
終戦時のベルリンを過ごした女性の日記でありまして、ソ連軍による婦女暴行が被害者の側から描かれています。
本書を読む限りでは、ドイツの男性達は特に抵抗しなかったように見えるのですが、そのように見られるのを好まなかったドイツ社会は「敵意と沈黙」で本書を迎えました(H・M・エンツェンスベルガー「ドイツ語版編集者の後記」P.320)。そのため、1953年に出版されてから50年近くも闇に葬られてきたのです。
また、ドイツの被害を描き出すということは、「複雑で、道徳的に白黒のはっきりしない問題であって、あらゆる種類の歴史修正主義者によって簡単に悪用される恐れがある」(同上 p.321-2)という、微妙な問題をはらんでいます。
 
この点については山本浩司氏が「訳者あとがき」で以下のように論じています。
 
女性ジャーナリストによって綴られたこの日記には、「ソ連軍の凄惨な集団婦女暴行が克明に記録されているが、本書の批判の射程は赤軍の無法を超えて、ナチズムはもとより、近代ドイツが称揚してきた男性神話にまで及んでいる。従って、女性たちの悲劇を国民的な受難の物語として、戦前の歴史に再接続するために都合よく利用するわけにはいかないのだ」(p.324-5)と。
 
なお、山本氏は同時に、女性ジャーナリストの「時代の制約」(p.325)も指摘します。ナチ用語を使っている点を指摘する等、翻訳者・研究者ならではの解説で、非常に参考になりました。
 
翻訳も素晴らしいです。
白水社もよくやった。
超オススメ。私の本棚(厳選)行きだなあ。
 
今年1冊目。


 

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