森まゆみ(編)『伊藤野枝集』

森まゆみ(編)『伊藤野枝集』を読みました。

伊藤野枝の創作、評論、随筆、書簡から成ります。
荒削りでみずみずしい文章。これから・・・というときに虐殺されてしまいました。

一番興味深かったのは「無政府の事実」です。無政府共産主義の理想について、「しかし私は、それが決して「夢」ではなく、私共の祖先から今日まで持ち伝えてきている村々の、小さな「自治」の中に、その実況を見る事が出来ると信じていい事実を見出した」(P.278)とし、村にあった「組合」による「自治」を説明していきます。1921年、1922年で「自治」を言っていたとはちょっとびっくり。他では村にあるコンベンション(因習)を否定しつつ、組合による自治の姿を村から抽出するという、そういう多角的な視点をも持った人でした。

他にも、子育てしながら雑誌の編集をしているようなところは極めて現代的ではないでしょうか。現代の女性が読んでも親近感持って読めると思います。

おすすめ。

今年1冊目。

ジッド『ソヴィエト旅行記』

ジッド『ソヴィエト旅行記』を読みました。

ジッドが何を見ているか、というところが参考になったと思います。
イデオロギーではなく、人々を本当に見ていたからこそ、こういうレポートを書けたのではないでしょうか。
おすすめの一冊。

今年10冊目。
※Kindle Unlimited

ヴォルフガング・シュトレーク『時間かせぎの資本主義――いつまで危機を先送りできるか』

ヴォルフガング・シュトレーク『時間かせぎの資本主義――いつまで危機を先送りできるか』を読みました。

難しいですが、翻訳者の鈴木直の解説が非常にわかりやすい。解説から読むと良いと思います。

はじめのところでアドルノとの共通点を上げていて、「たとえば、危機は最終的にはうまく収まるはずだといった信仰を、著者は直感的に拒否している。この点はアドルノも同じだったと思う」(P.8)と言っています。

いままで「時間稼ぎ」によって、危機が先延ばしされていて、危機が顕在化するというのを想像できなくなっているのが現在なのかもしれません。要はみんなで「なんとかなる」と思っている。環境問題もそうですよね。今までは地球が人間の営みを包含してくれていてどうにかなっていたわけです。でももうなんとかなるレベルを超えている。「なんとかなる」ではなく、「なんとかならない。だから、なんとかしなければならない」というように、そもそも思考を変えていかないと何も変わらないのだろうなあと思いました。

今年11冊目。
※図書館で借りた本。

斎藤幸平『人新世の「資本論」』

斎藤幸平『人新世の「資本論」』を読みました。

よくぞ書いてくださった、という本。
晩期マルクスの思想を掘り起こし、いまのアクチュアルな諸問題につなげて論じています。
<コモン>を再建する脱成長コミュニズムを目指せ、とします。
読んで自分はどう行動するかです。考えて行動します。

今年93冊目。

ドミニク・チェン『未来をつくる言葉: わかりあえなさをつなぐために』

ドミニク・チェン『未来をつくる言葉: わかりあえなさをつなぐために』を読みました。

自身のこれまでを振り返りながら、思索を広げていくという、なんといいますか、哲学・思考というのはこういうものなんだろうなあと感じる本。最近アートなお店でよく見かけたので、手にとった次第なのですが、ものすごく良かった。著者と一緒に思考する中で、今のこの分断の世界を変えるヒントが得られた気がします。

オススメ。

今年78冊目。
※図書館で借りた本。

白井聡『武器としての「資本論」』

白井聡『武器としての「資本論」』を読みました。

「階級闘争」が上から行われてきた、という指摘が興味深い。確かに新自由主義的な雰囲気が蔓延して、それを”おかしい”と思う気持ちも薄れてきてしまっている気がします。なんで、なんとか社長があんなにたんまりとお金を持っているのだろう、その会社の給与体系はどうなっているんだろう、おかしくないか、と思うのではなく、なんとか社長への憧れがあり、むしろすごいと、なんかそんな感じになっている気がします。

あと印象的だったのは、「寅さん」がわからないという人がいるらしい。あえてあのポジションにとどまる、そこに悔しさもあればプライドもある、みたいな感じ。そういうのがもう理解されなくなってきているのです。

他にも多数考えさせられるところがあって、何回も読み直さないといけない本だなあと思いました。

今年63冊目。
※図書館で借りた本。

マルクス・ガブリエル , マイケル・ハート他『未来への大分岐』

マルクス・ガブリエル , マイケル・ハート他『未来への大分岐』を読みました。

マルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、ポール・メイソンと齋藤幸平との対談集です。対談集は読みにくいイメージがありますが、本書は非常に読みやすいです。それぞれの方々の著作を知らない私も特に引っかかるところなく読み進めることができました。内容は非常に読みがいがあります。

マルクス・ガブリエルの倫理の考え方が特に印象的でした。前に日本でサンデルが流行ったときに私は違和感があったのです。議論は重要ですが、議論しあっておしまいみたいな形では何も生まれないからです。かたや、マルクス・ガブリエルは言います。「私達は倫理のための普遍的原則を手にしています」(p.211)と。それはロールズの無知のベールに近い考え方で、「少しの間自分自身であることは忘れ、自分を抽象化して、他人の視点から見てください。その選択に賛成できますか?他人の視点から考えて、賛成する理由を見つけられないなら、それは倫理的ではありません。」(p.211)というものです。このように考えていけば、普遍的な倫理はあると私も思います。

あと、数カ所でハラリの『ホモ・デウス』が取り上げられていました。否定的な文脈だったのですが、ハラリは『ホモ・デウス』の最後を疑問形で終わらせているので、『ホモ・デウス』になる!とか目指せ!とは言っていないと思います。そこのところは違和感がありました。

今のままで世界はやばいよなあ、と思っている人には大いなるヒントになると思います。オススメ。

今年30冊目。

ユヴァル・ノア・ハラリ『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』

ユヴァル・ノア・ハラリ『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』を読みました。

「現在」を考える21講です。考えながら読み進めるためかなり読み通すのに時間がかかります。GW中に集中して読むことにしてよかった。

「14 世俗主義」に書かれている世俗主義の世界の価値観が私には合いました。私なりに整理すると以下のとおりです。

・真実を重視する(非科学的な信条/信念は退ける)
・思いやりが倫理の基盤で、苦しみが少なくなるような中道を探し求める
・平等を大事にする(先にありきの階層制には疑いの目を向ける)
・自由を大事にする(疑いを持って異なる道を試してみる)
・誤りや無知を認めて未知の世界に踏み込む勇気を持つ
・責任を持って自分たちにできることをなす(近代以降の社会の罪と失敗の責任を取る)

これらの価値観を忘れずに持っておいて、いろいろなことを考えたいと思います。

今年26冊目。