スタンダール『パルムの僧院(上)』

スタンダール『パルムの僧院(上)』を読みました。
 


 
スタンダールは年の離れた恋愛をよく描きますね。
『赤と黒』とは異なり、主人公のファブリスは思うがままやりたい放題な感じです。出世の可能性があったのですが、激情のまま恋敵を殺してしまいます。

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京極夏彦『陰摩羅鬼の瑕』

京極夏彦『陰摩羅鬼の瑕』を読みました。
 

京極夏彦『陰摩羅鬼の瑕』

 
あまり前評判はよくなかったのですが、なかなかよい本だと思います。
読み始めてすぐに、事件の犯人と殺害方法がわかりますので、ミステリーとしてはいまいちかもしれません(なにせあの関口巽にもわかっちゃうんですから!)。そこが評価の低いところなのでしょうか。
 
特に深く考えないで理解したつもりになっている生と死の境界。これがいかにあやうく、ゆらぎやすいものであるか。この小説を読むと考えさせられます。
 
また、これは京極作品を読んでいつも思うのですが、記述の慎重さは特筆するべきです。ノベルス版P.716に儒教の「家を父から引き継ぎ、時代へ嗣ぐこと」に対する京極堂の発言があります。京極堂は、性差別や階級差別の問題に配慮しながらも、そうした仕組みが特定の場所や特定の時代に機能していたことはどれだけ弊害があったとしても一概には否定できないとし、話を続けていきます。『絡新婦の理』等で宗教と女性の問題を取り上げている京極堂でありますが、単純な評価はしない。こうした京極堂の慎重さは高く評価されるべきでありましょう。
 
さて、今年に入り京極作品は『姑獲鳥の夏』から『陰摩羅鬼の瑕』までのシリーズを読み終えました。どれも素晴らしく甲乙つけがたいのですが、強いて1つあげろと言われれば『狂骨の夢』です。『姑獲鳥の夏』も捨てがたいのですが。

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スタンダール『赤と黒(下)』

スタンダール『赤と黒(下)』を読みました。
 
マチルドのころころ移り変わる想いや、嫉妬心を利用した駆け引き等、主人公ジュリアンを巡る恋愛ドラマが非常に面白い。
また、解説にあるとおり社会小説の側面もあります。フランス7月革命前、つまり王政復古期の階層社会において、いろいろな策略をこらして上へ上へと出世をねらう人々の様子が描き出されています。
 
これまたオススメの小説であります。

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スタンダール『赤と黒(上)』

スタンダール『赤と黒(上)』を読みました。
 
小説では、主人公ジュリアン・ソレルの心理が描かれます。
あまりいいところの出ではなく、上流階級を憎みながらも、強い野望(出世指向)を持ち、僧侶階級をのし上がらんとするジュリアン。(上)ではパリに行く前までが描かれています。
 
小説は読みやすいのですが、1点、「ジャンセニスト」という言葉がわかりませんでした。訳注にも説明なし。Wikipediaに「ジャンセニスム」という項目があり、参考になります。非妥協的な教義故、異端扱いされたそうな。ジュリアンも、自分を評価してくれた人が「ジャンセニスト」だったため、反「ジャンセニスト」によって逆に低評価を受けてしまいます。

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ヴィクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル(1)』

ヴィクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル(1)』を読みました。
人間ドックは待ち時間が長いです。その待ち時間を利用したら1冊読めてしまいました。
 
岩波文庫版は豊島与志雄さんの訳となっています。
原文を読んだことのない私のような素人が読んでも、読みやすくかつ見事な文体です。しかし、豊島さんの序文「序」で、物語の内容が簡潔に要約されてしまっています。この「序」を読んでしまうと読む楽しみが半減してしまうので、後回しにすることを強くオススメします。
 
物語は1815~32年のフランスが舞台。
その歴史をすっかりと忘れていたので、読み終わった後に、山川出版社の高校教科書『詳説世界史』で歴史をチェックしなければなりませんでした。無論、細かいところまで抑えなくても物語を追うことができます。非常に面白い。第二巻を読むのが楽しみです。
 
印象に残ったのは、民約議会議員と司教とのやりとり(P.78-)。
ナポレオン後、フランスではルイ18世が復位します。教科書的には、次いでシャルル10世が現れて、その後に7月革命が起こり、ルイ・フィリップが王となる・・・と続いていきますが、ルイ18世が復位したとき、民約議会議員らは失脚し、市民達からも嫌悪され、迫害されていたのです。その様子が描かれます。そして、民約議員は司教に言います。
 
「不幸にも事業は不完全であった。私もそれは認める。われわれは事実のうちにおいて旧制を打破したが、思想のうちにおいてそれをまったく根絶することはできなかったのです。弊風を破る、それだけでは足りない、風潮を変更しなければならない。風車はもはや無くなったが、風はなお残っているのです」(P.86)

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