小熊英二『単一民族神話の起源』

小熊英二『単一民族神話の起源』を読みました。
 

 
実家に帰ってゲット。ずっと積読になっていた本です。
むちゃくちゃ分厚い本ですが、あっという間に読むことができます。非常に興味深い本。
 
意外にも、敗戦前は日本=混合民族の国という認識が一般的であり、それが帝国主義の理論的バックボーンとなっていました。古来より混合民族を同化した経験を生かして、領土拡張と同化政策を推進すべきというロジックになりました。いわゆる単一民族神話は敗戦後に非日系人が少なくなるに伴い一般化したものです。
 
著者が主張するのは、「単一民族」とか「混合民族」といった「神話」を持ち出すのではなく、「神話からの脱却」であります。世界を認識する際に類型化することは避けられないことではありますが、「直接にむかいあいながら少しずつ類型をつくる努力を怠り、わずかな接触の衝撃にすら耐えきれずに神話の形成に逃避し、一つの物語で世界を覆いつくそうとすることは、相手を無化しようとする抑圧」(P.404)であるからです。
 
オススメの一冊。
 
今年26冊目。

Continue reading “小熊英二『単一民族神話の起源』”

中根千枝『タテ社会の人間関係―単一社会の理論』

中根千枝『タテ社会の人間関係―単一社会の理論』を読みました。
 

 
資格と場、タテとヨコという概念で日本を含む単一社会を分析したベストセラー。
大学一年のときに読んだかな。帰郷したときに持ち帰ってきて再読しました。
 
“場”(一定の地域や所属機関等を指す)を強調した社会集団のあり方が分析されています。自分を社会的に位置づける場合に、“○○会社の者です”といった言い方をすることを考えると理解しやすいでしょう。
・・・読んでみて、内容をすっかりと忘れていることに気づきました。マズイですな。大学時代に読んだ本はイチから再読しないといけないのかも。
 
今年3冊目。

Continue reading “中根千枝『タテ社会の人間関係―単一社会の理論』”

藤田省三『全体主義の時代経験』

藤田省三『全体主義の時代経験』を読みました。
 

 
時代が時代なので、新年一発目は藤田省三から。
久しぶりの再読であります。
 
著者自ら述べているごとく、病床で書かれたエッセイ集です。そのためか、論述にわかりにくさがつきまといます。特に「全体主義」の定義が明確ではないと思います。例えば、有名な“「安楽」への全体主義”という言葉があります。「安楽」を求めるために不快の源を根こそぎ取り払ってしまうことを指して言っています。しかし、全体主義のポイントは、国家が経済・社会・文化の諸領域に介入して自由を奪うことにあると思います。藤田のように全体主義概念を広げすぎてしまうのには疑問が残ります。
 
とはいえ、本の各所に卓見がありますので、アフォリズム(箴言)集として読むにはいいのかもしれません。
 
今年1冊目。

Continue reading “藤田省三『全体主義の時代経験』”

佐高信『面々授受 久野収先生と私』

佐高信『面々授受 久野収先生と私』を読みました。
 

 
日本の「市民運動の理論的指導者」(高畠通敏)である久野収の言葉が多数紹介されています。悪く言う人が多いのですが、久野収は信頼に足る思想家だと思います。
 
しかし、返す返すも後悔するのは『久野収集』を買いそびれたこと。
出版された当時、大学生だったので、お金もなく、全集の初版は誤植が多いということもあり、再版時に買えばいいやと思って買いませんでした。
・・・それからちっとも再版されません(涙)。品切れ状態のようです。刷ってください岩波書店さん。
 
この本の勢いで、『久野収集』を岩波現代文庫で再版してくれればいいのに。
 
今年124冊目。

Continue reading “佐高信『面々授受 久野収先生と私』”

合田正人『サルトル『むかつき』ニートという冒険』

合田正人『サルトル『むかつき』ニートという冒険』を読みました。
 
サルトル『むかつき』ニートという冒険
 
久々の悪書です。この本は読まない方がいいです。
 
帯によると「高校生が読んでわかりやすい」というのを売りにしたシリーズのようです。しかし、非常にわかりにくい。これを悪文と言わずしてなんといいましょうか。
文章が講義口調になっています。この本の通りに本当に講義したら、高校生という、筆者にとってのそれこそ他者はどのような反応をするでしょうか。
 
あと、著者は自分のことを”先生”(本文中の表記だと「センセー」)と呼んでいます。「センセーはそんなサルトルが好きだ」(p.53)・・・自分のことをよくもまあ先生などと言えるものです。あきれてしまいます。小学生相手だったらわからないでもないが。
 
今年一番の悪書でした。お金返してほしい。
 
今年113冊目。

Continue reading “合田正人『サルトル『むかつき』ニートという冒険』”

魚津郁夫『プラグマティズムの思想』

魚津郁夫『プラグマティズムの思想』を読みました。
 
プラグマティズムの思想
 
米国で生まれたプラグマティズムについて、代表的な思想家を取り上げて議論した本。
論述が整理されているので、じっくり読めば理解可能です。
プラグマティズムについてはサボっていて全くノータッチだったので、非常に参考になりました。オススメ本。
 
今年60冊目。

Continue reading “魚津郁夫『プラグマティズムの思想』”

森達也『悪役レスラーは笑う』

森達也『悪役レスラーは笑う』を読みました。
 
悪役レスラーは笑う
 
非常に面白い。
ドキュメンタリー作家が書いているだけあって、ドキュメンタリー番組を見る感じで読むことができる本です。
 
自分がどこに所属するのかというナショナリティの問題は、それほど単純ではありません。再認識させてくれる一冊。
 
今年36冊目。

Continue reading “森達也『悪役レスラーは笑う』”

レッシング『賢人ナータン』

レッシング『賢人ナータン』を読みました。
 
賢人ナータン
 
面白い。オススメ。
イスラム教、キリスト教、ユダヤ教の融和を説く「三個の指輪」の話は一読すべき。
 
(以下、若干ネタバレあり)
 
ところで、解説や本のカバーに、本書では「三宗教融合帰一」の途が示されていると書いてあります。
しかし、「三個の指輪」は「三個の指輪」のままであり続けるので、”融合帰一”とするのは誤りで、”融和”なのではないかと思います。
ラストを見ても、登場人物たちは家族になりますが、宗教的に一つになっているわけではないと考えられます。
 
今年35冊目。

Continue reading “レッシング『賢人ナータン』”